■トップでの公式戦出場経験のない19歳も招集
日本では、ヴァイッド・ハリルホジッチ新体制のお披露目となった国際親善試合2連戦に、かなりの注目が集まったようだ。
日本が5-1の完勝で、中央アジアの雄ウズベキスタンをねじ伏せた結果には豪州メディアも反応を見せた。
準国営放送SBSが運営するサッカーポータル「the World Game」は、「“5つ星”の日本、ハリルホジッチ新体制で2連勝」という「5得点の圧勝は5点満点で5点の最高評価」という少々捻りを利かせた見出しの記事で、淡々と試合の経過を伝えた。
ライバル日本がチュニジア、ウズベキスタンに2連勝したのと同じタイミングで、豪州は世界王者ドイツとマケドニアとの2連戦を消化、2戦2分けという結果を残した。
特にドイツ戦は、アジア王者たるサッカルーズが世界王者のドイツを相手にどこまでやれるかという期待感から、ただの親善試合の割には関心が集まっていたように感じた。
3月11日に発表された今回の欧州遠征の代表メンバー23名。マーク・ブレッシアーノの引退、ティム・ケーヒル(上海申花)のケガでの辞退もあって、平均年齢が25.39歳と大きく若返った。その中でも最大のサプライズは、イタリア・セリエAの名門ラツィオに所属する弱冠19歳のMFクリス・イコノミディスの選出だった。左サイドのウィング、または攻撃的MFでプレーするアタッカーのイコノミディスはラッツィオ所属と言っても、今季はプリマヴェーラでプレー(公式戦で既に15得点を挙げている)、ここまでトップでの公式戦出場機会は無い。
いや、それだけではない。彼には、豪州国内を含めて、いかなるシニアレベルでの公式戦(筆者注:コッパ・イタリアとセリエAで計3試合のベンチ入りはあるものの未出場)でのプレー経験が無いのだ。
同時期に招集された豪州U-23代表オリルーズ(筆者注:愛称のオリルーズはオリンピックとカンガルーを掛け合わせた造語)を飛び級しての大抜擢には、当然ながら驚きの声が上った。
しかし、同時に、自ら発掘してきたマッシモ・ルオンゴを大ブレークに導き、サッカルーズの新しい顔として育て上げた実績のあるアンジ・ポスタコグルー監督が見い出した若き才能に期待する声も大きい。■世界王者ドイツに善戦。あわや「歓喜」の再現も
豪州国内でも注目を集めたドイツ戦、サッカルーズは期待に応える大善戦を見せた。後半36分、ルーカス・ポドルスキの同点弾を喫するまでは、世界王者をリード。ホームの大観衆の前で「もしや、番狂わせか」というところまで、世界王者を慌てさせた。
サッカルーズは、この試合の善戦で大きな自信を得た。絶対的エースのケーヒルや、ドイツでのプレー経験が豊富なロビー・クルーズ(レバークーゼン)といった主力不在でも、直後に公式戦(ユーロ予選)を控えた本気モードに近い世界のトップ・クラスに充分に伍する力があることを示すことができた。
ちなみに、この日の会場は9年前のドイツW杯、あの“カイザースラウテルンの屈辱(悪夢)”の舞台となったフリッツ・ヴァルター・シュタディオン。日本側からすると「屈辱」の舞台でも、豪州にとってみればW杯初勝利を達成した「歓喜」の思い出の舞台。
そのスタジアムで、世界王者を破る金星を挙げて、再び「歓喜」をという思いがあったか否か――。結果として、世界王者をあわやというところまで追い込んでの2-2のドローに、試合後のサッカルーズの面々の表情は明るかった。
続くマケドニア戦は、一転して、サッカルーズの課題が浮き彫りになる試合だった。平均26.09歳という若いラインナップで臨んだこの試合は、終始、圧倒的にゲームを支配しながらも得点を挙げられないまま、スコアレス・ドローに終る。
この試合では、ここぞという所で決めてくれるケーヒルの不在の影響がまともに出てしまったことは否めない。■少数派である国内組。欧州遠征にクラブは反発も
何と言っても、この試合のハイライトは、試合時間が残り10分を切ったところでのイコノミディスの代表デビュー。
後半36分からの少ないプレー時間で、特に見せ場を作れずに終わったものの、彼が歴代598人目のサッカルー(サッカーの代表選手の意)としてピッチに立った瞬間は、豪州のサッカーの歴史でも前例の無い「シニア世代でプレー経験の無いA代表選手」が誕生した歴史的瞬間でもあった。
彼のこの日のデビューをして、“超新星”の誕生と喧伝するのは早計だろう。その実力の程は、もう少し長い時間でのプレーを見てから判断するしかないが、ポスタコグルー監督の慧眼に認められた選手だけに将来が有望な選手であることには違いない。「クリス・イコノミディス」、この名前を憶えておいて損は無いだろう。
サッカルーズは、公式戦以外の国際親善試合を国内で行うことが極めて少ない。その地理的隔絶をして“距離の暴虐”と言い表される豪州だが、サッカーの世界でもそれは例外では無い。
伝統的にトッププレーヤーの多くが欧州でプレーしてきており、直近の代表でも23名中16名が海外、そのうち15名が欧州でプレーしている。そういった多数派の選手達の長距離移動の負担を嫌って、欧州で合宿/親善試合を行うのは非常に理に適っている。
従って、少数派であるAリーグ所属選手が欧州で合宿を張る代表チームに合流するため遠路はるばる駆け付ける、という日本とは全く逆の図式が発生する。
適材適所を国内外問わずにフラットに求めてきたポスタコグルー体制下では、過度の欧州組偏重だった2人の前任者(ピム元監督、オジェック前監督)に比べて多くのAリーグ所属選手が代表に選出されるようになった。
今回もその例に洩れず、各クラブの主力クラス8名が招集、ケガで辞退したウェスタン・シドニー・ワンダラーズ(WSW)のマシュー・スピラノヴィッチを除く7名が、シーズン佳境のクラブを離れて欧州に飛んだ。■W杯予選へ着々と強化
実際、各クラブを預かる監督にしてみれば、このタイミングでの代表招集は、所属選手が代表に選ばれるという栄誉の反面、その代償としての不在時に余儀なくされる戦力ダウンと選手の疲弊などもあって、正直なところ痛し痒しだ。
特に、ACLとの併行の超過密日程に青色吐息の中で、それぞれ2名ずつを招集されたWSW(スピラノヴィッチはケガで辞退、参加はFWトミ・ユリッチのみ)とブリスベン・ロア(MFマット・マッカイ、DFルーク・ディヴィア)にとっては一大事だ。
そのいずれの監督(トニー・ポポヴィッチ、フランツ・タイセン)も、このタイミングでの代表招集に対しての疑問を呈してだけに、その影響は小さくない。
このように、Aリーグ所属の代表選手の増加を受けて、代表日程とクラブ日程の兼ね合いでの両者間の様々な駆け引きがメディアを騒がせるようになってきた。これは、代表とクラブという2つの要素が複層的に共存する国際的サッカー・シーンでは当たり前のこと。
その“当たり前”がAリーグでも起きているという現状をして、豪州サッカー、そしてAリーグの発展の表れであると、ポジティブに解釈しておきたい。
ライバル日本が新たな船長の下で船出したのを横目に見ながら、新しいアジア王者の座に就いた豪州は、今や選手やファンの全幅の信頼を集める船長の下で確実な成長を見せている。
2018年ロシアW杯へと続く長い航海のスタートまで、あと僅か2ヶ月。日本にしてみても、ロシアへの長い航路の途中で必ずあいまみえることになるアジア最大のライバル豪州の動向から、目を離すわけにはいかない。
via http://www.footballchannel.jp/2015/04/04/post80809/